姿消した カリカリ 探針 突っつくと虫歯悪化も
小、中学生時代に受けた覚えがある歯科検診。マスク姿の歯医者さんに針のついた器具でロの中をカリカリ探られた感触を懐かしく思い出す人も多いのでは?「でもあのカリカリ、最近では学校で行われる歯科健康診断の場からほとんど姿を消しているんですよ」という声が都内の歯科関係者から寄せられた。虫歯を探すのに必要だとばかり思っていたが、いったいどうして。
「カリカリと針で歯を突っつくと、逆に虫歯を悪化させる可能性があるので、そういう検査の仕方はやめることになったんです」
この問題に詳しく、15年近く学校歯科検診に携わってきた東京都小平市の歯科医。河野正清さんは、そう解説する。
子どものころ、歯科検診で何度もカリカリされ、「C1、C2」と虫歯が見つかるたびに緊張した身としては、力が抜けるような話だ。今、記者の口の中は無残なほど治療痕だらけ。もしかして、あのカリカリのせいで悪化した虫歯もあったのか。
「可能性としては否定できませんね」。河野さんが同情のまなざしで残念そうに言った。
先端に少し曲がった針のついたあの独特の器具は,探針と呼ばれる。文字通りへ虫歯などの異常がないか、”探るための針”だ。かつては歯科医なら誰でも、虫歯の疑いがあると探針の先で歯を突っついた。キュッと挟まれるような粘り気やひっかかりを感じれば、虫歯になり始めていると判断していたという。
粘り気を感じるのは、歯からカルシウムなどが溶け出す「脱灰」が起きているから。健康な状態の歯なら、硬いエナメル質なのでカンカンしといった感触になる。
ところが海外では1960年代に探針を使うとエナメル質を壊すとの論文が発表された。さらに近年の研究の結果、口の中で起きる脱灰と、再び固まって自然に修復する「再石灰化」のしくみが明らかに なり、ごく初期の虫歯ならば削らなくても治る可能牲があることや、探針の使用がせっかくの再石灰化を邪魔しかねないことが分かってきた。
こうした中、日本でも2002年にようやく、検診に携わる歯科医でつくる日本学校歯科医会が虫歯の検出基準から「探針を用いて」の文字を削除。
ミラーを使うなど視診を主とする検診が昨年度から始まった。
この検出基準変更により、学校の虫歯検診の場からカリカリが急激に姿を消していたのだ。
歯科検診を受ける立場から言えば、虫歯を悪化させるリスクがある検診器具の使用は早くやめてほしかった。なぜ"探針依存"からの脱却が遅れたのだろう。
日本学校歯科医会の監事で日大名誉教授の森本基さんは「かつては早期発見・早期治療を目指していたので、探針は絶対必要だったんですと振り返る。その証拠に同会のシンポルマークには、探針がデザインに取り入れられている。いかにも「虫歯を探して治すぞ」という雰囲気が漂う。
1970年代後半をピークに、日本の子どもたちには口を開ければ虫歯だらけという時期があった。「そのころは虫歯の進行も早かった。脱灰があれば一年後には虫歯の穴ができているのが普通だった」と森本さん。だから早期治療が求められた面があるという。
しかし子どもの口の中はその後、正しいブラシングやフッ素入り歯磨き剤の普及などで改善されてきた。このため虫歯の進行も遅くなっているという。同会は現在ではできるだけ歯を削らず健全に保つ「健康増進」を重視する立場で活動する。
学校の虫歯検診でも、昔のような「C1」から「C4」まで4段階あった進行度分類は使っておらず、「C」(虫歯)から「CO」(要観察歯)とする分類を1995年から導入済み。
COとは、虫歯と断定できないものの、口の中の状態が悪いままだと虫歯に変わり、状態が良ければ健全歯に戻る歯のことで、適切なブラッシングや口中環境の改善などが大切だ。
さて、問題のカリカリだが、探針は現在、虫歯検診でまったく使われなくなったのではなく、食べかすや汚れで虫歯の穴の有無が視診だけでは分かりにくい場合などには、必要に応じて使ってもいいとされる。ただし、突き刺すようには使わない配慮が求められる。
しかし、かつては1キロぐらいカをかけて使ったこともあったという探針。是年の習慣からか、いまだに突っついて使う歯科医がいる、という。
子どもが学校で虫歯検診を受けてきたら、こう確認したほうが良さそうだ。「カリカリって突っつかれなかった?」
以上 、「東京新聞 '2004/10/2(土) 東京ミステリー」より紹介させて頂きました。
「歯の治療をしなくても済むようにするには歯科医院で定期的にチェックを}と言う発言も載っています。